L型擁壁(土留め)を自力で設置

 

崩れかかった古い擁壁(土留め)をDIYで作り直しました。

 

もう23年前のことですが、高さ1m、長さ16mの擁壁を自分で作りました。

この工事を通して、人の親切さやものづくりの面白さを知った、私のDIYの原点とも言える出来事なので、古いDIYですがぜひ紹介させていただきます。

なお今までのDIYの中で最も過酷なDIYでもありました。

人には勧めませんが、工事の過程は参考になると思います。

 

 

きっかけ

1995年自宅を新築することになり、古家が建ったままの土地を購入しました。
古家は取り壊しの予定です。

その土地にはコンクリーブロックでできた擁壁が既にあったのですが、あちこちひび割れて今にも倒れそうです。

家も土地も契約を済ませ頭金も支払い、ほとんど預金もありません。
一応擁壁の造り直しの見積もりを業者から取ったのですが、その見積もりが

約70万円

しかも図面を見てびっくり、コンクリーブロック造ではありませんか。
これだったら今までと同じで、また数十年建つと壊れるに決まってます。
そもそも擁壁はコンクリーブロックで作るものではありません。
今だったら鉄筋コンクリートでしょう。

念のため鉄筋コンクリートで作るといくらかかるか尋ねたら、

約200万円!

どうするか・・

自分でやってみようか・・

この時点では、まだ自分でするなど5%位しか思っていませんでした。

ある日車を運転していたら、路肩にコンクリートミキサー車(生コン車)が止まっていて、運転手が車の点検をしていました。

とっさに車を止め、思い切って運転手に声を掛けてみました。

私  「あのー、コンクリートって素人にも売ってくれるのですか?」
運転手「あーもちろん。それならうちへおいでよ。」

と言って、あっさりとしかも当たり前のように会社の電話番号と場所を教えてくれました。
会社の名前はM建材店

なんとそんなに簡単に買えるのか。
それにしても親切な運転手だったのが意外でした。

さっそくM建材店に行き、おそるおそる中に入り、

私「あのー、さっき運転手さんから聞いたんですが、コンクリートは素人にも売ってくれるそうですが・・」
店「あーいいよ、何に使うんですか?」
私「土留めです。」
店「あーそれなら配合は○・○・○だね。」(○の中の数値は忘れました。)
私「配合が色々あるんですか?」
店「そう、骨材(砂利)の大きさ、強度、固さなどによって使い分けるわけ。-中略(詳しく配合について教えてくれました。)-  どれくらいいるんですか?」
私「いや、まだ計画中なんです。」
店「じゃまた決まったらおいで。それからポンプ車が必要なら手配してあげるよ。」
私「ポンプ車??」
店「高いところや離れたところにミニサー車から生コンを送るやつ。」
私「あーそういえば見たことがあります。そういうことだったんですか。
ところで、コンクリートで作ろうと思うと、型枠がいると思うんですけど、どこで買えばいいんでしょうか?」
店「それなら、うちの弟がやっている会社で扱ってるから行ってごらん」

その店の名はM商店

再び電話番号と場所を聞いてM商店へ。
そこでも同じようなやりとりをして、型枠はいつでも手に入ることになりました。
こちらもとても気さくで親切でした。

ここまででわかったこと

・プロは素人相手でもとても親切であること。
・謙虚に聞けば、何でも丁寧に教えてくれること。
・擁壁にはI型とL型があるが、当然L型の方が丈夫。IとかLとかというのは擁壁断面の形状です。

ここまでM建材店とM商店に親切にしていただいたら、すっかり自分でできるような気持ちになってしまいました。

工程

工程は次の通りとなりますが、すべて初めてのことなので、色々なプロに聞きながら一つずつ行いました。
したがってどの工事がいつ終わるのか全くわからないまま取りかかりました。

・既存の擁壁の撤去
・整地
・鉄筋の配筋
・L字擁壁の下部のコンクリート打設
・L字擁壁の上部の型枠設置
・上部のコンクリート打設
・型枠撤去

構造は次の図のようにしました。

 

既存の擁壁の内側の掘削

当然人力ではできません。パワーショベル(バックホー)が必要です。

レンタルのニッケンへ行きパワーショベルを借りることにしました。

私「パワーショベルを借りたいんですけどー」
店「はいはい。大きさと期間を教えてください。」

運転したことがないので、2m下まで届く小さめのパワーショベルを借りることにしました。

私「パワーショベルの免許を持っていないのですが・・・」
店「作業免許というのはあるけど、自分の敷地内なら大丈夫でしょう。」

ということで次の金曜日に作業することになり、前日の木曜日に運んできてもらうことになりました。
土日がレンタル店が休みなので、返却は月曜日。

木曜日にトラックに載せられてパワーショベルが届きました。
運転手さんにパワーショベルの運転の仕方を教わりました。
ほとんど左右の手だけで操作するのです。
足はパワーショベル本体の移動に使います。
すぐに慣れて自在に動くので、明日の金曜日が楽しみ。
ゲームが得意な人は運転は簡単でしょうね。

金曜日、まずは既存の擁壁の内側を掘り進めます。

しかし、予想以上に時間がかかり、その日は掘削だけしかできませんでした。

読みが浅すぎる。

土曜日、既存の擁壁を解体します。

何と既存の擁壁は、厚さ10cmのコンクリートブロックで、鉄筋も縦が(縦筋といいます)80cm間隔しか入っていません。

しかもブロックとブロックの継ぎ目の穴だけにモルタルが詰められていて、後の穴は空洞です。
塀ならこれが普通ですが、擁壁として使うには全く強度不足です。

この頃になるとプロから教わり、ずいぶん工事の知識も増えてきたのですが、コンクリートブロックには厚さが10・12・15cmと3種類有り、10cmというのは横方向の力のかからない普通のブロック塀に使われるものです。

しかし、そのため逆に壊すのは簡単でした。
簡単とはいっても、高さ1m、横16mのコンクリートブロックを全部解体するのは大変な作業でした。

パワーショベルで塀を倒して、後はハンマーで自力で割るのです。
「ハッ!」「オリャ!」「ホォ!」
かけ声を色々変えて気分も変えないと、とてもやってられない作業です。

パワーショベルで持ち上げることのできる大きさに割ったら、運転席に移動してパワーショベルで運び出します。

この繰り返し。

途中パワーショベルのガソリンが切れたため、2lのペットボトルの飲み物を買ってきて、その容器を使ってガソリンを買いに行き、補充しました。
今なら考えられないような危険なことをしていたのです。

DIYをしていたら色々なトラブルが起きます。

結局擁壁を解体するのに、3日間かかってしまいました。
夏の作業だったので、死ぬかと思う位大変な作業でした。

パワーショベルのレンタルの契約は1日ですが、返すのは月曜日なので、土日も作業してやっと既存の擁壁を撤去できました。

パワーショベルを返却するとき、

私「結局土日と3日間使ったんですけど」
店「あーいいですよー」

結局追加料金も取られませんでした。おおらかですね。
再度計算をするのが面倒だったのかも知れません。
返却日も同じだし。

解体したコンクリートブロックはどう処分するか?

この時点では古家がまだ建っていたので、古家を解体するときに一緒に処分してもらうことにしました。

 

整地

透明なホースを使い水平を確認しました。
L字擁壁の下部は完全に水平にしておかないと、後々困るからです。

基礎部分に砂利を敷き、「転圧プレート」という地盤を固める機械を借りて固めましたが、元々の地盤が岩盤なのでこれは必要なかったようです。
それより地盤を固める機械だけあってかなりの重量だったので、引き上げるのが大変でした。借りなきゃ良かった。

 

鉄筋の配筋

L型擁壁の厚みは、底の下部と立ち上がりの上部は厚さ20cmとしました。
根拠は?
たぶんこれ位で大丈夫だろうと思ったからです。

鉄筋コンクリートの構造のことは当時は全く知識がなかったので、とりあえず20cm間隔で直径10mmの鉄筋を格子状に配置することにしました。
本当はもっとたくさんの鉄筋を使わなければならないのでしょうが、コンクリートだけの擁壁もあるそうなので、ま、いいことにしましょう。
都合のいいように突然アバウトになります。

鉄筋を扱うのは初めてです。
とりあえず鉄筋カッターだけはレンタルしておきました。

L字型の擁壁の底の部分と縦の部分は、鉄筋で結合されていないといけないので、鉄筋も初めからL字型に曲げて配置していきます。

縦と横の鉄筋を接合していきます。

ここで使ったのがレンタルの溶接機
エンジン式の大きな機械で、トラックで運ばれてきました。

溶接は一度やったことがあるのですが、あまり自信はありません。

溶接面(目を保護する濃いガラスが付いたお面)を左手に持ち、右手で溶接棒を持って溶接していきますが、これが難しい。

溶接を開始すると、溶接機のエンジンがグオーと音をたてて回転数を上げます。

あまりにも能率が悪いので、左手をフリーにするため、レイバンのサングラスに掛け替え、薄目を開けて溶接しました。

しばらく奮闘していると・・・

アリャ 周りが曇って見える

いや、これは目がおかしくなっている。

急遽作業を中断し、眼科医に行きました。

事情を説明して診察をしてもらうと、医者が
「角膜の火傷です。」
初めて角膜が火傷するということを知りました。網膜でなくてよかった。

目の表面に薬を塗ってもらいました。

2・3日すると治りました。やれやれ。

溶接はもうすっかりあきらめ、結束線という細い針金をハッカーという工具で結びます。
これはD金物店であれこれ聞き、教えてもらった方法です。

 

プロに聞くこともすっかり慣れてきました。

結束線を使用する方法は、溶接に比べるときわめて簡単です。
強度は溶接の方が強いのでしょうが、コンクリートで固めてしまうので、これで十分です。
プロも使用しています。

 

L字擁壁の下部のコンクリート打設

外側にコンクリートが流れ出ないように板で囲むだけなので、これは簡単でした。
杭を打って板を固定しました。

M建材店に電話して、生コンを運んでもらいます。
さすがプロ、時間どおりきっちり来てくれました。

容量は2立方メートル。
当時1立方メートル当たり約1万円だったので、2万円位ですね。
自分でコンクリートを練っていたら大変な作業になるので、これは助かります。

生コン車から一輪車に少しずつ移し、投入します。
何度も運ばないといけないので大変です。

途中私がよろよろしていると、見かねて運転手も手伝ってくれました。
本当にプロは優しい。

打設したコンクリートの上面を木の板でならし、平らになったら完了です。

 

L字擁壁の上部の型枠設置

L型擁壁の下部と上部は強固に接続しないといけないので、できるだけ早く上部のコンクリートを打設しなければなりません。

打設の間隔を開けすぎると、コールドジョイントといって、完全にくっつかなくなります。

下部の打設が終わったら、翌日には上部に打設するコンクリートのための型枠の製作にかかりました。

M商店から購入した型枠は600×1800のサイズだったので、半分に切って600×900のサイズにしておきました。

L型擁壁の下部の上に型枠を2枚平行に立て、セパ(セパレーター)を挟んで20cmの間隔を保ちます。

外側と内側の型枠に、セパや番線を通す穴を開けなければならないのですが、位置を一致させなければならないので、かなり面倒な作業です。

上から見ると、次の図のようになります。

全部立て終わったら、桟木を2枚の型枠の外側からあてがい、桟木を番線シノという道具を使って締め上げます。

控え壁も作らなければなりません。
水抜き用の穴はVU-50という配水管を使いました。

時間がないので、仕事が休みの日には、早朝に弁当を作ってずっと現場で働きました。

言葉で書くと簡単なのですが、1人でするととても時間がかかるのです。
でも、早くしないといけないのでがんばって3日で組み上げました。

型枠を挟むのは、本当は桟木ではなく専用の鉄製の角パイプを使うそうですが、1回限りの工事なので桟木にしました。

擁壁の下部が0.2mの厚みがあるので、上部は高さが0.8mしかないのでもつだろうと思ったからです。

 

上部のコンクリート打設

型枠が完成したら、すぐにM建材店に電話して生コンを発注します。
容量は3.5立方メートル。
ポンプ車も手配してもらいました。

打設が手間取って途中で固まったらいけないので、2回に分けて運んでくれました。
とても親切です。

さすがに打設当日は1人では難しいので、助っ人を2人お願いしました。
打設しながらコンクリート内に気泡が残らないように、バイブレーターという機械を使って気泡を抜かなければならないからです。
バイブレーターはもちろんレンタルです。

ポンプ車と生コン車が到着し、手際よく準備しています。

これから本当にコンクリートが型枠の中に入るんだと思うとぞくぞくします。

生コン車から生コンが吐き出されます。ザー
ポンプ車が動き出し、ホースの先から生コンが投入されます。ウィーン、シャバシャバー
すぐにバイブレーターで気泡を抜きます。ブーン
まさに工事現場。

型枠内に生コンが投入されると、生コンの圧力で型枠が外側に広げるよう圧力がかかります。

型枠を締め上げた番線がギシギシと音をたてます。
がんばれ。頼むからもってくれ!
番線に祈ります。

一度に1箇所から入れずに、まず底の部分全体に入れることにしました。
多少でも時間が経つと固まるのだそうです。

格闘すること30分位でしょうか、時間を計る余裕も写真を撮る余裕もありませんでした。

打設し終わり、ポンプ車と生コン車が帰った後、いつもの静寂が戻りました。

終わった。自分でできた・・・

感慨深い瞬間でした。

しばらくその場に立ってじっと擁壁を眺めていました。

 

型枠撤去

コンクリートが固まるまでしっかり養生期間を置き、1週間後に型枠を撤去しました。
今までの苦労に比べれば簡単簡単。

コンクリートの白い肌が表れました。

型枠組立に際してたくさんの助言をいただいたM商店には、すぐに菓子箱をもってお礼に行きました。

 

工事を終えて

一番良かったのは、プロの方々がとても親切に教えてくれたことです。

こちらが謙虚な態度で接すれば、ほとんどのプロは丁寧に教えてくれます。

親しくなった業者さんは、こちらの顔を覚えてくれ、今後困ったときにすぐに相談することができるようになりました。

中には一見さんは相手にしない業者もありますが、そんなところとはさっさと付き合わないようにすればいいだけです。

最初に計画を立て、技術的に体力的にできそうだったら絶対にできるという自信がつきました。

工事費はコンクリートが約7万円、ポンプ車が約4万円、型枠が約8万円、重機レンタル料約3万円、鉄筋等の材料が約3万円、総額約25万円です。

自分ですれば、業者に頼んで作ってもらう金額の約10分の1でできることがわかりました。

工期は1ヶ月少々でしたが、暑い中なので大変過酷な工事でした。
しかし、何とかやり遂げたことで大きな自信になりました。

今度は何をしようかな~~  と、DIYが一生の楽しみとなった体験でした。

M建材店さん、M商会さん、D金物店さん、レンタルのニッケンさん、本当にありがとうございました。

2021年8月6日

Posted by kazu-DIY