トルクレンチ校正器(トルク測定器)の製作
エアコンの取付を自分で行おうと、エアコン用のトルクレンチを3本格安で手に入れました。
さらに以前購入して一度も使っていないプリセット型トルクレンチが1本。
ところで、トルクレンチは使っているうちに狂いが生じるため、年に1回位の間隔で校正に出さないといけないらしい。
しかしその校正料が数千円もするため、新品を買ったほうが安いということになるのです。
だったら自分でトルクを測定できたらいいと思い、今回チャレンジしてみました。
トルクレンチの握り部を延長してトルクの測定(大失敗)
トルクの単位はN・m(ニュートンメートル)なので、例えば17.2N・mのトルクレンチなら、柄の長さを1mにすれば17.2Nの力をかけたときに「カクッ」となるはず。
力を測るための秤(はかり)の単位はkgfだから1N=0.102kgfとして、17.2Nは1.805kgfとなります。
つまり秤の表示が約1.8kgになったとき「カクッ」となります。
これだと換算が面倒なので、柄の長さを1.02mにすれば、17.2N・mのトルクをかけたとき、柄の端を押す力は、
17.2(N・m)÷1.02(m)=16.863(N)=1.72(kgf)
となり、秤の数値がそのまま使えます。
すなわちナットから1.02m離れた場所を1.72kgfの力で引っ張ったときに「カクッ」となったらOK、ということになります。
注)普通秤にはkgと表記されていますが、正式な単位はkgf(重量キログラムメートル)です。
これはいいことを思いついたと、さっそく実験してみました。
使うトルクレンチは二面幅17mm、規定のトルクは17.2N・m。
17mmのボルトを万力ではさみ、トルクレンチをかけます。
そのトルクレンチにステンレスパイプを突っ込んで柄を延長し、ボルトから1.02mの所に秤をかけ引っ張ります。
秤の目盛が1.72kgを指したときに「カクッ」となるはず。
ところが あれれっっっっ 秤の目盛は 1.30kg
これでは 1.3(kgf)×1.02(m)×9.8=13.0(N・m)
誤差のレベルではない。
なぜか??
一晩考えました。
どうやらこれはトルクレンチの構造に秘密があるに違いない。
トルクレンチの構造
工具メーカーのKTCのホームページにプレセット型トルクレンチの構造が出ており、説明もあったのですが、同じ画像をここに掲載するわけにはいかないので、エアコン用トルクレンチの図(自作)を使って説明します。
トルクレンチの構造は次の図のようになっています。
力点に力を加えると、作用点の部分が押さえられているバネの力に打ち勝って動き、「カクッ」となります。
支点・作用点に17.2N・mのトルクがかかったときに、作用点が動くようにバネの力が設定されているのですね。
KTCの説明では、
作用点にかかっている力=F×(a+b)÷b
締め付けるネジに掛かる力(トルク)=F×A
となっていますが、最初の 作用点にかかっている力=F×(a+b)÷b の意味がよくわかりません。
これも一晩考えてわかりました。
わかりやすくするため、バネなどの部品を省略して示すと、次のようになります。
もしスパナの柄の部分が長く力点まで届くような長さだとすると、次の図のようになります。
このとき力点と作用点は同一場所となり、トルクレンチ本体とスパナ部分は一体となり、力点にかかる力と作用点にかかる力は同一となります。
次にもし作用点が支点と力点のちょうど真ん中にあるとすると、次の図のようになります。
このとき、作用点にかかる力は力点にかかる力の2倍になります。
また、作用点が支点と力点の間で支点寄りに1:3の所にある場合、次のようになります。
このとき、作用点にかかる力は力点にかかる力の4倍になります。
これは次のようにてこで考えれば理解しやすいです。
右上の点にFという力を下向きにかけたとき、てこの真ん中の位置に物を置くと、2倍の2Fの力で物体を押します。
左から1/4の位置に物体を置くと4倍の4Fの力で物体を押します。
このように考えると、力点からa、支点からbの位置には F×(a+b)÷b という力がかかることがわかります。
(a+b)÷bというのは、式で書くとわかりにくいですが、(a+b)というのは支点から力点までの距離のことですし、bは支点から作用点までの距離のことですから、支点からの力点までの距離が支点から作用点までの距離の何倍かを示しているだけのことです。
このことはトルクレンチを使うとき力点、すなわち力を加える場所を間違えると正しいトルクがかからないということを意味します。
もし決められた力点より支点寄りに力を加えると、 (a+b)÷b の値が小さくなるので、力点にかける力Fが一定なら、作用点にかかる力 F×(a+b)÷b が小さくなります。
したがって「カクッ」となるための作用点での力は不変なので、力点では本来より大きな力を必要とします。
このとき大きめの力をかけるものの支点からの距離は近くなるので、トルクはどうなるのか後で検証します。
反対に支点より遠い場所に力を加えると、 (a+b)÷b の値が大きくなるので、作用点にかかる力 F×(a+b)÷b が大きくなります。
したがって、作用点で「カクッ」となるための力点での力は本来より小さくなります。
このとき小さめの力をかけるものの支点からの距離は遠くなるので、トルクはどうなるのかこれも後で検証します。
いずれにせよ力点は守ったほうが良さそうです。
トルク測定器の製作
力の大きさを測るための秤(はかり)がほぼ正確であることがわかったので、トルク測定器の製作に取りかかりました。
手持ちのトルクレンチは新品で、エアコン用の17mm・22mm・26mmの各サイズ、及びプレセット型(差込角9.5mm)なので、それらを測定できるようにしました。
まずエアコン用トルクレンチに合うよう17mm・22mm・26mmのネジ類を用意します。
これを合板上に配置し
各トルクレンチを力点が一直線上に並ぶよう配置し固定します。
試しにこの状態でトルクレンチを回してみると、各ボルトはいとも簡単に回転し、トルク測定どころではありません。(失敗!)
当たり前か。
この方法は直ちに却下。
それでは強いトルクをかけても回転しないようにと、で次のような部品を作り
トルクレンチをかけて回してみました。
今度はトルクレンチをかける部分を留めていたM3のネジ2本がほぼ抵抗することなく簡単に剪断してしまいました。(失敗!)
相当なトルクがかかってます。
次に同じ鉄板をディスクグラインダーで次のように加工し、
ネジで固定しました。
プレセットトルクレンチ用は、鉄板に9.5mm角の穴を開け使用しました。
穴はまず10mmの丸穴をドリルで開け、4隅を角ヤスリで削って仕上げました。
各部品を合板上にボルト止めし、さらに木を接着剤とネジで補強しました。
これでびくともしなくなりました。
測定は次のようにします。
トルクレンチの握りの部分には力点の印があるので、その部分に秤の上部をセットします。
ワイヤーをゆっくり巻きながら秤の目盛を読み取ります。
手で引くとブルブル震えて目盛を読み取るのが困難なので、秤を引っ張るステンレスワイヤーをM6のネジを曲げて作ったクランクで巻取るようにしました。
「カクッ」となる直前に秤の最大値を示すので、その値を記録しておきます。
トルク(N・m)=秤の値(kgf)×柄の長さ(m)×9.8
で求めます。
最後に9.8をかけるのは、1kgf=9.8Nだからです。
ワイヤーは直径1mmを使用しましたが、弱いので後に1.5mmに変更しています。
また、クランクもM6では強度不足で曲がってしまうので、後にM8に変更しています。
トルクの測定
上記の方法で手持ちのトルクレンチを測定しました。
17mm用:規定トルク17.2N・m、柄の力点までの長さ0.169m
測定結果は、秤の値が10.5kgfなので
10.5×0.169×9.8=17.4(N・m)
お~これはかなり規定の17.2N・mに近い。
次22mm用:規定トルク39.9N・m、柄の力点までの長さ0.175m
秤の値が23.2kgfで
23.2×0.175×9.8=39.8(N・m)
これも近い。
26mm用:規定トルク53.9N・m、柄の力点までの長さ0.230m
秤の値が23.9kgfで
23.9×0.230×9.8=53.9(N・m)
ピッタリ!
プレセット型トルクレンチは設定範囲が21N・m~105N・m なので、
最低の21N・m、中間の49N・m、最高の105N・mを測定しました。
プレセット型は設定トルクを変更するごとに柄の力点までの長さが変化するので、その都度長さを正確に測って計測しました。
その結果、21N・mでは23.3N・m、49N・mでは48.8N・m、105N・mでは110N・mとなりました。
プレセット型では測定範囲の両端では誤差が大きくなるという記事がネット上でありましたが、その通りでした。
中間の49N・mではほぼピッタリでした。
力点の位置によるトルクの違い
前述したように持つ位置、すなわち力点の位置は正確でなければなりません。
でも位置が変わったら一体どれくらいトルクがずれるのか、検証してみました。
使ったのはエアコン用の22mmのトルクレンチ。
本来のトルクは39.9N・mです。
支点から力点までの標準の距離は0.175mですが、それより30mm短いところと長いところで測定してみました。
まず30mm短い力点、すなわち支点から力点までの距離が0.145mの場合。
秤の値は29.4kgfでした。
そのときのトルクを計算すると
29.4×0.145×9.8=41.8(N・m)
あれ、本来のトルク39.9N・mより少しオーバートルクだけど思ったほどでもない。
やはり作用点で「カクッ」となるときに加える力は大きくなるものの、距離が小さくなるので、ある程度相殺されているものと思われます。
では30mm長い0.205mの位置ではどうか。
秤の値は18.6kgf。
このときのトルクは
18.6×0.205×9.8=37.8(N・m)
こちらも本来より少し小さいが思ったほどでもない。
この両者の柄を引く力29.4kgfと18.6kgfでは大きく違いますが、実際にかかっているトルクはそれほど違っていません。
この記事の最初に書いたように、柄を1mまで伸ばすとさすがに大きくズレます。
この検証での結果を図に示すと、次のようになります。
まとめ
・この測定方法ではおそらくメーカーの校正ほど正確ではないとは思いますが、少なくとも規定より大きく外れていないかの確認するくらいの作業はできそうです。
すなわち高い校正料はいらなくなります。
・力をかける位置は決められた位置を守るべきですが、あまり神経質になるほどではなさそうです。
・測ったトルクをもとにバネの力を調節して、校正のようなことをすることは可能だと思われます。
以上、充実したDIYでした。
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